響きあう、結びつく心と身体、思考とが… |
3月2日(日)FMラジオガイアの風
ゲスト 福岡在住 オイリュトミスト 藤原 馨さん
3月のガイアの風はオイリュトミストの藤原馨さんを初めてゲストとしてお招きした。馨さんは毎月、北九州市小倉南区守恒公民館にて私たちと子どもたちにオイリュトミーを教えてくれている。オランダにてオイリュトミーを学ばれ、帰国しちょうど4年が経った頃。福岡を中心に山口、広島などでもオイリュトミークラスを受け持っている。「帰国後4年たちますが、いろいろな場所で芽吹きの時を迎えているのでは」とお聞きすると、「まだ模索状態という感じでしょうか」と素直に答えられた。オイリュトミーを通して人々と交流できることにますます楽しさを感じているとのことだ。「特に子どもたちの素直でみずみずしい感性には感心します。私も多くを与えられています」と話す。
オイリュトミーとは哲学者ルドルフ・シュタイナーが創始した身体表現で、現在も世界中で1000校を超えるというシュタイナー学校では必須科目として週に2回子どもたちが行うことになっている。ギリシャ語源で「オイ」はよい、美しいという意味を持つ。「リュトミ−」はリズムだ。身体と心と、考える思考をバランスよく育てるためにとりわけ重要視されている。
シュタイナー学校でも思春期ともなれば子どもたちはとても嫌そうにやってくる(笑)のだそう。極めて自然ですね、と笑った。心と頭が切り離されてゆく今の教育には絶対に必要だと感じて私たちもオイリュトミーを始めたのだが、幼児をはじめとし、小学生たちもとても楽しそうにその日を待ってくれている。ずいぶんと定着し、実りをもたらしている。何より、オイリュトミーを終えた子どもたちはとてもよい顔をしている。「もともと子どもの中に持っている聴く力、感じる力を育んでゆくということです。言葉でオイリュトミーを説明することってほんとに難しいですが…」
オイリュトミーは他にもシュタイナーの哲学を実践している治療施設では治療オイリュトミーとして発展している。芸術オイリュトミーではさまざまな舞踊と結びついて実験的な試みがなされている。
オイリュトミストはまだ日本では数少ない。オイリュトミーの本場はドイツというイメージだが、あえてオランダで学ぶという経験をしたことについて質問してみた。「たまたま主人の仕事でオランダへ行くことになりまして、それならオイリュトミーの学校へ行こうと。ほんとうはもう日本のオイリュトミー学校を卒業しているので(笠井叡氏の天使館)治療オイリュトミーなどの学校を探したのですが、もうなくなっていたので教育オイリュトミー=ぺタゴギーオイリュトミーを一から学べるオランダの国が認める大学で学ぶことにしたんです」実際は語学などでつまづき卒業できないことの方が多いという。けれど持ち前のチャレンジ精神でいろいろな障害を乗り越えた。「ドイツ人たちが一軒家をシェアしていたところに私も住んで、日曜だけを家族と過ごすというやりかたを選択し、語学やオイリュトミーに集中する環境をつくったんです。不思議なほどいろいろな事が苦にならず、朝から晩までオイリュトミーができる喜びでいっぱいでした」と語る。学校には練習できる場所がいっぱいあって、すぐ近くにはオランダ王立アカデミーがあったので少しお金をだせば、音楽の伴奏もお願いできる。恵まれた環境で温かいクラスメイトたちと助け合い、さまざまなことを学び、過ごした充実した時間は人生の宝物になっていることだろう。人智学のカリキュラムも独特で色彩、惑星の性格、力の意味を討議しながらフォルメンなどで描くという実習も印象的だった。「使える感覚はすべて使いながら」という感じですね、と私が言うと、「そうですね。オイリュトミーでは聴くという行為を初めとして、12感覚をすべて使って研ぎすますことを要求されますね」と答えた。今回選んでくれた曲にもひとつひとつ思い入れがあり、そのエピソードのひとつ、コレッリのラフォリアに関しては天使館の卒業公演にて踊った曲だという。そのとき、たまたま持っていたCDがオランダ王立アカデミーの演奏で、いつかこんな伴奏でやりたいなあと思っていたことが数年後には実現していたという巡り合わせ。魂の願い通りに歩んできた馨さんらしいエピソードだと思った。
ほかに興味深かったのは国や母国語が違えば、異なるオイリュトミーの表現があるという事。オランダ語の特徴を例にあげて説明してくれた。「言葉の取り方でオイリュトミーの空間も違うんです。人間が言葉によって育つというのは本当だなあと確信しますね」幼児のオイリュトミーに欠かせないのがメルヘンだが、「メルヒェン=小さなお知らせ」という本来の意味のとおり、物語りのなかに小さなお知らせがあってそれを幼児は模倣で身振り手ぶりからだで覚えていく。言葉が伝達の手段でしかない私たちの日常生活をもうすこし注意深く見ていくと言葉の持つ力や響きに思わぬ治癒的な力を見い出すことだできるのだということを再認識する。それは教育において、セラピーにおいても直に実践可能だ。
さまざまなオイリュトミーの在り方を模索している馨さんにとってこの3月に予定されている公演はまた新たな挑戦となりそうだ。公演のタイトルは「植物紋様」サブテーマは〜ひびきのなかに、からだのなかに、そしてことばのなかに〜「藤枝守さんという方がいらして、その方はカリフォルニア大学で学び、プラントロンという機械で植物の生体情報である電位変化を音にあらわし音楽を作曲している方で、私たちのよく知る12音律ではなくピタゴラス音律や純声調という新たな音律の方向を模索しています。日本では文化人類学者の中沢信一氏などとレクチャーなどをしているようで、5度の音が人間に心地よいということをしきりに言っています。」
番組の最後で藤枝氏の曲、「Iam a woman」を聞かせてもらった。とても美しい曲で
他の曲も是非聴いてみたいと思った。音楽の方ではこの藤枝さんの曲を砂原悟さんというまた有名な音楽家が演奏するということで楽しみである。1日目は藤枝さんのプレレクチャーと砂原さんのクラヴイコードというピアノの原型となる楽器の演奏を福岡市赤煉瓦文学館という貴重な建物のなかで行う。(東京駅設計の辰野金吾による)2日目は藤枝さんの曲を砂原さんのピアノとオイリュトミーで表現するという試み。「これまでの音階と全然ちがってどういう風に音をとるのか、とかとても難しくて、ある意味で不安、ある意味で楽しみという感じですね」と笑顔で語る。この貴重なコラボレーしョンはオイリュトミーを知らない人にもインパクトを与えることだろう。新しいことに挑戦するのはいつも得意な馨さんのことだ、意味深い公演をしっかりやり遂げるに間違いない。私たちも楽しみにしている。この公演にはたくさんの人たちを巻き込んで春の始まりの時期をともに元気に踏み越えたい。天性のオイリュトミスト、馨さんとつながれることを幸せに思いながら、今春からの私たちのオイリュトミーの活動にも自信を持って臨みたい。思いを人々へとつなげたい。是非、公演へと足を運んでほしい。芽吹きの季節にふさわしいオイリュトミーの深き世界を堪能されたい。
"「植物紋様」〜ひびきのなかに、からだのなかに、そしてことばのなかに〜"