「シュタイナー経済理論の実践」 ゲスト オイリュトミスト スイスアルケナ社 アリモトノゾミさん |
1年半ぶりに再会するアリモトノゾミさんは変わりない美しい笑顔で終始おだやかに話して下さった。
人智学(アンドロポゾフィー)の中枢であるスイス・バーゼル近郊のドルナッハを拠点にオーガニックウエアの会社アルケナをスイス人の御主人と運営されている。北九州へは前日行われた健康オイリュトミーのワークショップのため訪れた。
まず昨日のオイリュトミーワークショップの内容から。とても柔らかな照明の部屋でオイリュトミー本来の動き、響き、色を内的に感じとることができた会だったように思う。イメージを働かせながらひとつひとつの動きやフォルムを丁寧に感じてゆく。
シュタイナー芸術の本質として他者との関わりをとても大切に感じさせてくれる流れだった。
受講者の人々も素直に楽しんでいたようだった。私自身もひさしぶりにこの頃、めいっぱい入り過ぎていた力が抜けたと感じられた。
内側からゆるむということは今の時代けっこう難しい。講座終了後、力は抜け、思考は冴え、重心はどっしりと安定した感覚で心のざわつきが消えていた。
すぐに現実にかき消されるだろうが、この状態を覚えていて雑事に心揺さぶられることのないようにありたいと思った。喜びに満ちたワークショップだった。
オイリュトミーとの出会い、それからシュタイナーの共同体、スイス・ドルナッハのゲーテアヌムへ行く流れをゆっくりと聞いてゆく。
広島大学で教育学をまなび、幾何学について深めていた時に、人智学の建築学者の方との出会いがあり、短い期間スイスへ渡る。
より学びを深めるためにあらためてスイスのゲーテアヌム精神科学自由大学に留学する。
ゲーテアヌムや人智学関連の人々との御縁が最初から深くあったようだ。
オイリュトミーは内的に幾何学を学ぶにもっともふさわしいものだと感じられたようだった。
学生時代のアリモトさんはまるで“修道女”のようにオイリュトミー三昧の日々を送られたそうだ。
「ホームシックには全然ならなかったんですよ、」と笑顔で話されていた。自分で決意し、自然の流れのなかで向かった先に人生のライフワークとなる一筋の道が用意されていたように。御主人との出会いももうその頃にあっていたようである。
すでにオーガニックウエアの会社を経営されていた御主人のシルクウエアとの出会いもアリモトさんにはとても大切な出会いだった。
オイリュトミーは身体の生命感覚をフルに使う芸術運動であって、自分を覆い包む衣装は、“クライト”と呼ばれるシルクの衣装である。絹は第二の肌とよばれるだけあってもっとも軽く、柔らかく、人間の肌になじむ、オイリュトミ−には最適な布である。
オイリュトミストでありアルケナ社の仕事も忙しくこなすアリモトさんは、誰よりもシルクウエアの素晴らしさを知っている方だ。
アルケナのオーガニックシルクウエアは世界で唯一、IMO国際市場エコロジー機関で認定された有機綿から作られている。※バイオダイナミック有機農法(シュタイナー農法)で栽培された桑の葉を食べて育った蚕は極上の繭を作ってくれるのだ。世界的にも類をみない良質のシルクウエアの品質を保持することはとても大変なことだと思う。
日本においては、シュタイナーの経済理論を実践しているという数少ない(ほとんどない)企業として、貴重な話を伺うことができたと思う。
アルケナはスイスに直営店を5店鋪持つ。日本での取扱い店は数十店鋪にもなる。
そんななかでスタッフのマネージメントもさぞ大変でしょうと聞いたら、それがそうでもないんですよという答えが返ってきて驚く。アルケナが目指しているスタッフひとりひとりの意志を尊重し、ヒエラルキーのないフェアな労働環境を整えることだという。単に収入のために働くという考えではなく、人々のために真に役立つことで喜びを感じられるようにと社員の意識の向上にも心を配ってゆきたいと考えているそうだ。
今から8年ほどまえに旅したスイス・ドルナッハへの旅で出会ったゲーテアヌムを取り巻く人々を思いだしながら、最近のゲーテアヌム周辺の雰囲気についても聞いてみた。
人智学といっても、農、教育、建築、オイリュトミー、医療などさまざまな分野で世界中から人々が集まって来るという。最近では若い日本からのオイリュトミストにも数人出会ったとのことだ。
若き日々のアリモトさんがそうだったようにシュタイナーとの出会いによって使命を与えられた人々が日本で活躍することも多くなってくるだろう。
アリモトさんの展望を最後にお聞きしたいと思ったが、きっと彼女は今までもそうだったようにこれからもひとつひとつ丁寧に積み重ねてゆくことをもっとも大切に考えているのだろうと思い、あえて聞かなかった。
独特の声の響きと誠実なまなざしの印象がずっと変わらず私たちの心のなかに残っているアリモトさんは本当に強くて美しい人なのだ。
また御会いできる日まで、私自身もさらに成長を続けていくだろう。それぞれのさらなる発展を祈って。
北九州にてのオイリュトミーの体験は→ 北九州オイリュトミーの会
ルドルフ・シュタイナー、バイオダイナミック有機農法について、